田の原川を味方に付けて
●湯宿「新明館」
この日、世話になる宿は「新明館」である。
この宿のご主人が黒川温泉を全国へ知らしめた人達のキーマンだとは有名な話である。
宿は地蔵湯など建物が密集する対岸に有り、川に沿って細長い敷地の為、朱塗り欄干の橋を渡ると、直ぐに玄関だ。
土間脇の受付カウンターで記帳し部屋へ通される。旅館内部の雰囲気は柱や梁、建具など木部は黒に近い茶褐色、壁は黄土色の田舎家を思わせる内装で、通された客室も上品な田舎風の内装であり、場所は二階の川側の角部屋、なかなか良い部屋なので満足!。
次に風呂だが、男女別々の浴室が有り、外部に家族風呂、混浴の露天風呂と伝説の洞窟風呂の3箇所が狭い川岸に作り込まれていた。そしてもう一箇所、旅館の裏山の斜面の中腹に山の露天風呂が有り、こちらは予約制だ。
食事については、専用の部屋に通されるのだが、屋根付きの橋で川を渡り雰囲気を盛り上げるような演出と感じた。
また食事処は大広間ではあるが、客ごとに専用の囲炉裏を設えた作りで、炭火焼料理の給餌を補うスタッフさん達の爽やかな気配りに好感が持てる。
因みに、この食事処は地蔵湯の裏側に位置し屋根を駐車場としている。
厳しい敷地条件を逆手にとり、川をも宿の空間として取り込み、最大限に活用する!。さらに感心させたのは、露天風呂に至る路地のような庭作りにおいて、外からは観られにくく、露地内からは川を感じさせつつ、対岸の建物等の人工物を、東屋や薪棚、植栽などで上手く隠しつつ。絶妙な庭作りをしていた。
このように工夫を重ね、客を持て成す真摯な姿勢に満ちた宿は、接客業を生業にする者にとって目指すべき姿と感じた。