私的な温泉旅のページ

山里の小さな理想土

山里のリゾート岩の湯
 平成元年(1989年)に創業したこの宿は日本旅館だが、和と洋の良いところを上手に取り入れていて、駐車場から玄関までは和の空間、そして玄関ホワイエや待合ロビーは南国のリゾートホテルの様な雰囲気だ。
先に門で記された銘板にある様に、宿のコンセプトも”自然の中の庵へ自ら歩入り寛ぎ癒して欲しい”。との思いで共有空間を含め館全体が寛ぎの場として考えられており、通路の諸処に寛ぎの場がさりげなく作り込まれていた。
それは小図書館のリビングの様な、本棚に囲まれ書斎の様な読書コーナ、ゆったり庭を眺めながらの談話コーナーや、木々の中に浮かぶ半屋外のテラスルームを設けたり、路地や渡り廊下のテラスには、椅子•ベンチ•ソファーが随所に置かれており、ハンモックなど遊び心も垣間見える。
個室に於いても居心地の良いリビング空間が設えられ包込むように癒してくれる。
 因みに“岩の湯”の客室は18室、対して敷地は約1万坪あり空間的にとても贅沢だ、それにもまして周囲の自然環境が素晴らしく、広葉樹と針葉樹が程よく混じり合い宿からの眺望は、意図して配置しているかのようだ。また周囲の山林の植生を意識て宿全体のインテリアや意匠の方向性が決められていると感じた。部屋のバルコニーやパブリックデッキ等からの眺望では、人工物が見えない緑の山林に浮かぶ理想土な湯宿である。

●岩の湯 建物の配置について

 何処にいても居心地の良い、この宿の全体像を俯瞰してみる事にする。
「岩の湯」敷地は10,000坪ほどで、建物は仙仁川の東岸に沿うように建つ、その仙仁川は少し斜めに南北に流れ、西岸は平坦で駐車スペースと前庭が配され、東岸は山の斜面が迫っている為、建物も斜面を利用し雁木状に迫り上がる。故に木々に囲まれていながら庭に閉鎖感はなく明るい印象なのはその為だ。

 この様に山の斜面を活かしながら各階層の部屋の構成について述べると、第1層の中心には玄関や待合ラウンジ、その南側に事務所、厨房、食事処が配され、また中央の待合ラウンジの北側には、池や流れが作り込まれた中庭があり北東に続く園路の奥には喫茶室を五〜六室を備える茶房「櫓」が置かれている。
注目点としてこの茶房は宿泊者以外の客も受入れている事だが、此処を利用する客の殆どは宿のリピーターで、予約のために立ち寄ったり、チェックインの時間調整や、連泊時の昼食などで利用することができ、また夜も遅くまで営業している有り難い施設である。因みに中庭を流れるせせらぎは大量に自噴する温泉水が注がれており年間を通して水温は一定のため、冬でも鯉は快適に暮らしている。
続いて第2層に上がると、談話室、休憩喫茶コナー、読書室、家族風呂のある本館の「仙郷亭」を中央に、その北隣りには大浴場の“仙人風呂”の有る「千寿亭」、そして南側には、離れの客室棟「仙山亭」などがあるが、この第2階層がプロムナードフロアになる。また仙人風呂の「千寿亭」前庭は1階ラウンジや喫茶棟のある中庭と繋がっている。
次に第3層は、ほぼ全てが客室で「仙郷亭」と「仙寿亭」の二棟に分かれているが、東側の山際に接しており露地通路で行き来できる、また所々でくつろげる休憩コーナーや、外部通路には静寂感が漂う喫煙コーナーが設けてある。
最後に北棟「仙寿亭」から上がる第4層には、三種類の貸切の浴室が造られていて、待合の為の見晴らしデッキや書斎付き喫茶コーナが設えてある。
そして更に階段で上がると。「森のテラス遊歩道」が山林の中に造られており散策する事が出来るが、この山から湧き出る湯に浸り心身共に温泉浴を満喫した後、山林に抱かれ森林浴で自然の気を吸収するのが「岩の湯」推奨のスタイルかもしれない。